寿寿❤

家に着くと

毒子のおかあさんがふつうに

「おかえりぃ　新沼くんに会えた？」

って…


そうだよ

おかあさんが

新沼くんに言っちゃうもんでだよ

「ひがし君たちと
Ｔ駅で待ち合わせだって言って
毒子はさっき出掛けたよ」

なんて言っちゃうからだよ

余計なことを…



ついでに

「あら！？　一緒じゃないの？」って新沼くんに言っちゃったらしい



仕方ない済んだことだ


その日の夜

新沼くんから電話がかかってきた






  

自転車こいでこいで

美和ちゃんのことが一番最初に頭をよぎった

あの現場にいない美和ちゃんのこと


美和ちゃんは

知っている

ひがし君が毒子に自分の写真を預けることを


いいの？


ちょっと…

はぁ…もしかして

あのふたりはもお会わないってこと？



わからん


新沼くんが隣りの市から

毒子とひがし君を探しに来て


ひがし君に殴りかかったことも


なんでついでに

デブ男まで一緒になってひがし君を殴るのは

もっとわからん




わからん


毒子自身も

あのとき

ひがし君のそばにいてあげなくちゃって

思ったかもしれないことも



　続…






  

可愛い孫のためなら

何十回だって












このしつこさも可愛い


たかいたか～い

えらいえらい

ひくいひく～い

も～むりむり




ちいちゃいけど大きいおぢいちゃんだったら

もっとひくいひく～い




  

毒子に新沼くんが言った

「帰る？」

「うん」

「またね」


またはないわ…


本物のカップルなら

説教とかあるんだろうね彼氏の

なんでふたりだけで会う？とか


毒子と新沼くんは何回もいうようだけど

おつき合いはしてない



ひがし君から預かった美和ちゃんの写真を

クリームソーダのトートバッグにちゃんと閉まって



自転車こいでこいで

毒子の気分は

変速ギア重々（おもおも）状態


重たい…



　毒…  

毒子は

ひがし君のとこまで行って

「大丈夫？」って聞いた


「大丈夫だから…写真頼むね…」

「わかった」


毒子は

この人たちともう二度と会うことはないわ

そんな気がした、ものすごく







毒子は今も忘れないでいる

３０年以上も昔のことを

名豊の建物を出て

パセオの前でひがし君と新沼くんとデブ男が殴り合いをして

新沼くんの衝撃的な言葉も









ひがし君を独り置いて

新沼くんとデブ男の後をわざとゆっくり歩いて追った

振り返った新沼くんが止まって毒子を待っていた




　　毒毒…




  

新沼くんとは

手も繋いだことないし

おつき合いしてもないし

ヤキモチ妬かれても

ほんと困るわ


関係ないひがし君を

殴るか

探しにくるか


嫌なオトコだわ

よけいに

嫌いになったわ



呆然とする毒子に

「ちょっといい？」

新沼くんが言った



目の前の殴り合いを見て

カラダが硬直してしまったのか

新沼くんに拒否反応なのか

最初の一歩がどうしても踏み出せない



すると

ひがし君が

「毒子ちゃんは新沼のとこ行きな」

って


そのひがし君の一言で

毒子のカチンカチンになったカラダは

まるでインチキっぽい催眠術をかけられて

わりと早めに解けたみたいな

あれ動くじゃん　みたいな


　毒…








  

タイヤを交換した




「タイヤ換えたほうがいいよ」

とおぢいさんに昨年から言われてて

「お金出してやるから換えちゃいんよ」

とまで言われた



今年５０歳

タイヤ代くらいはありますけど




タイヤを交換したら

あたくしでも判る

走り心地　が違う

全然違う




　ホワイトリボンっていうらしい
　　タイヤに白く塗ってある




　お店のチラシにあたくしのクルマ



　名古屋市北区の　エンブレムさん



　



　これは1歳７ヶ月の孫には触らせれんかった大事大事
　　　見せるだけ

  

そのとき

新沼くんが

小柄なくせに大声で…




叫んだ

ひがし君に殴りかかりながら


「さいしょから毒子ちゃんのこと好きだったんだろ！！」




毒子はびっくりした

そりゃあないない


ひがし君もびっくりしてるじゃん

いきなりそんなこと言われて

申し訳ない…ひがし君




どのくらい殴り合いが続いたんだろ

体力の限界なのだろうか

こんな場所で恥ずかしいってやっと気がついたのか


終了

終わると同時にさっさと見物人たちもいなくなった


今の時代だったら

ひとりかふたりくらいはスマホで撮影してたと思う



ひがし君の大事な顔から血も出てなさそうだし

とりあえずおさまってくれた



新沼くんが

「毒子ちゃん家に電話したら
おかあさんが
あら?一緒じゃないの？ひがし君からさっき電話きて
出掛けたけど　って言われてさ」





ひがし君が

「美和ちゃんの写真を預かってもらってた」


「それ、おかしいら」

鼻息が荒いデブ男が言った


デブ
あんたもおかしいわ
ひがし君を殴るのっておかしいわ
その若々しくない服装もおかしいわ


毒子は思った

それに

新沼くんとは

手も繋いだことないし

おつき合いしてもないし

ヤキモチ妬かれても



　　毒…


  

「てめぇ　ひがし」



と言っていきなり

ひがし君に殴りかかってきたのは

なんでこいつなんだ

デブ男だった


こんな駅前大通りで

調子に乗ったデブな男


ひがし君も殴られっぱなしではなかったのには驚いた

少年隊の東に似たひがし君

デブ男を

殴り返した



すると

小柄な新沼くんも

ひがし君を殴った


なんかとても格好悪いんだけど

小柄な新沼くんのパンチさばき



１対２で殴り合いが始まってしまった



一瞬、毒子は

不公平だ

毒子参戦

２対２にならなきゃいかん

と思った

がカラダが動かない


こーゆー場面は初めてだった

いざとなったら

声も出ない

カラダが動かない

脳だけはしっかりしてる感じ


あっとゆーまに

人だかりができてきた



毒子は


自分のために

自分を取り合って

男子たちが喧嘩してると勘違いされたら

いかんいかん

ドラマだと

可愛いコで…

ここに突っ立ってるのが自分だと可笑しい…

ここにいるのが自分じゃあ変…



気を使った毒子は

いつのまにか

人だかりの輪のなかに

紛れ込んでしまっていた


そのとき

新沼くんが

小柄なくせに大声で…


　毒…










  

毒子とひがし君の目の前に

新沼くんが現れたのだった



新沼くんは小柄なくせに文句がありそうな顔をしていた


その新沼くんの隣で

おなじように文句がありそうな顔をしていたのは


こいつ


デブ男だった


　毒…
  

毒子とひがし君がＴ駅に向かって歩いていた



けっこうな人たちが行き交っている




はっ



毒子たちの正面から歩いてくる人、人、人混みのなかに

みたことある顔が



なんでこんなとこに


毒子は気づいた


毒子、目が合った


毒子に気づいた






新沼くんが向うから

歩いてきたのだ



小柄のせいで

粋がってみえる歩き方に

違和感あり




新沼くんの隣にいるのは


　ゾク…



  

なんで

ひがし君と美和ちゃん

こんなふーになっちゃったのか

会ったら聞くつもりでいたのに


なんで

美和ちゃんの写真集ができそうなくらいの写真のかたまりを

預からなきゃいけないのか

今ちゃんと聞いた方がいいのか





美和ちゃんは知っている

ひがし君が自分の写真を毒子に預けるということを


美和ちゃんが知っているとなると

美和ちゃんに聞いたほうがいいのか






ひがし君といると

どんよりとした雰囲気になってしまう

そんな錯覚におちいりそうだったし


預かるもんもちゃんと預かったし


帰らんと



「帰ろ」と毒子が言うとひがし君が

「うん、悪いけど。…また連絡するね」




毒子の自転車が置いてあるところまで

ひがし君と待ち合わせしたさっきの場所まで




デパートを出て

駅前大通りを

Ｔ駅に向かってふたりが歩いていると



　　はっ…
  

毒子それでは

お写真

拝見いたします


けっこうあるなぁ

たくさん撮ったんだ

さわった感じでわかる



袋から出してみた


ほお


かわいいじゃん

アイドルみたい


思わず毒子

「かわいいね美和ちゃん」




ひがし君は黙っていた


５、６枚チェックのつもりが

結局全部見てしまった



違う違うわ

毒子の写真の写り方と全然違う


恥ずかしそうに照れて写る美和ちゃん

余計かわいい


写りの悪いのもあったけど


毒子のするどい感だと

写真は

ひがし君のお気に入り順に並んどる気がする






「しばらく預かるけど、あたしが持ってるのも変だよ」

って毒子が言うとひがし君が

「うん…美和ちゃん知ってるから…このこと」


「はあ…そうなんだ」




わけがわからない


　続…

  

「見てもいい？」




でも毒子

そこまでそんなに写真が見たい見たい

気になってしょうがない　ってわけでもなかったんだけど

なんとなく言ってしまった台詞


預かってから

家でも、こっそり堂々と何回も好きなだけ見ることもできるのに


ほんとは一番言いたかったのは

ひがし君、歩くの早いだね

だったんだけど


それ言っちゃうと負けた気がするので

やめといた




ひがし君が

「いいよ」って

かわいい紙袋から取り出したものは

昔、よく写真屋さんに現像に出したときに入れてくれるネガサイズの横長の袋

それを半分に折り曲げてあった




それでは…毒子が拝見いたします




　続  

いちお毒子は

ひがし君のお願いをきいてあげることにした



パジャマにもしてるTシャツとハーフパンツから

お出掛け用の服に着替えた



「おかあさん、ちょっと出掛けてくるわ

なんか、ひがし君が預かってほしいもんがあるって

Ｔ駅前で待ち合わせ」

「預かってほしいもの？」

「よくわからんだけどね。いってきます」

「気をつけて」



毒子は自転車をびゅんびゅんに走らせた

自転車で走ってても

髪の毛が短いので

風で髪の毛がなびかないのが惜しい



Ｔ駅まで自転車で１５分

駅前に自転車をとめて

待ち合わせの場所まで行ったら

もう、ひがし君がいた


片手に小さな可愛らしい紙袋を持っている


お待たせ　と言おうしたけど

違う気がした


ひがし君に頼まれて

おねがいされて

毒子がわざわざ来てあげたんだから

って思っていたら



「毒子ちゃん、ありがとう。ごめんね。急に…」

ひがし君が言った


「ほんと、そうだよ」

「場所移動するか？」

「そうだね」


ふたり並んで歩いた



毒子とひがし君が

ふたりになることはもちろん初めてだった


待ち合わせの場所から

３００ｍくらいの距離のデパートまで無言で歩いて

エスカレーターに乗ってゲームコーナーに着いた


ゲームコーナーのそばにあるベンチに腰かけた


「これ預かっててほしい。しばらく…」


「見てもいい？」




　続…




  

本日はNONさんとこに集合でした

女子のにぎにぎがやがやが好きです

集合写真を撮ってもらったのですが

あたくしだけ

どデカ過ぎる…

今度から

３メートルくらい後ろで離れてうつらんといかん



　NONさんとこの　お猫くんを抱っこ



　こんな素敵なサプライズが



　おぢいさんにあげるの勿体なくなる甘納豆ケーキ



　　あたくのワーゲンバスにそっくりいただきました










　　またNON



  

「お願いがあるんだけど…」っていきなりひがし君

「へっなんだん」


「預かってもらいたいものがあるんだけど」って遠慮がちにひがし君

「なにを」　　　



「写真…美和ちゃんの」

「写真を？なんでえ」


「しばらく預かっててほしい」

「あたしがぁ」


「今美和ちゃんと…あんまり…あっ…会って話す」

「どーゆーこと？」

「毒子ちゃん、いまからＴ駅前まで来てくれる？」



（ちょっと面倒…）






写真ってさぁ…


破って捨てるとか

燃やしちゃうとか

ドラマのシーンにあるじゃん

そーしりん　とは言えず




捨てたくはない

燃やしたくない

でも持ってたくない

で毒子に？


続…


  

美和ちゃんだって

いい気はしないだろうって思うんだけど


ふつうだったら

やきもちやくとか

電話の内容が気になって気になってしかたないとか


だけど美和ちゃん

毒子にはやきもちやけないのかしら



ちょっと前までは毒子だって

中森明菜の真似してポニーテールしてて

今度は小泉キョンキョンみたいになりたくて

耳が丸見えのショートカットにしてみたら

日焼けした真っ黒な顔のおかげで

坂上忍になっていた




美和ちゃんと毒子はえらい違うタイプで





その日は日曜日だった

いつもなら毒子の暇を見計らってるかのように夜かかってくるのに

珍しくお昼すぎに

ひがし君から電話がかかってきた


デブ男の件のとき

「毒子ちゃん逃げて」って

いきなり電話がかかってきたのが初めてで

最近ちょくちょくかかってくるようになって

第４話めくらいの電話だったと思う


ひがし君が言った

「お願いがあるんだけど…」




　続








  

その頃だった

新沼くんからの音信不通を願う頃


なんでだか

ひがし君から電話がかかってくるようになった



美和ちゃん、俺のことなんか言ってた？

なんて新沼くんみたいにぜったい聞いてこないし




別になにか用があるわけでもなさそうで

毒子も

美和ちゃんの彼氏と話をしているというより

女子どーしで会話してるみたいだった



美和ちゃんとどこどこ行ってきたとか

美和ちゃんが今日遊びにきてたとか



毒子とひがし君の共通の話題といったら

美和ちゃんと新沼くんだけだから


毒子も美和ちゃんに

「ひがし君から電話あったに」っていうし


ひがし君も美和ちゃんに

「毒子ちゃんに電話した」って言ってたようだったけど

後で思えば

美和ちゃんもいい気はしなかったはず

ふつうだったら






　　続…







  

新沼くん

相変わらず

「俺のことなにか言っとった？」って聞いてきた


毒子の人生のなかで

後にも先にも

この台詞をいう人は　新沼くんだけであった


この台詞がどーにもイヤだわ

自分が

他人にどー思われてるのか気になり過ぎな人ってイヤだわ


毒子は思う

自分が思っとるほど

周りは自分のこと気にしてない

自分が思っとるほど

周りは自分のこと見ていない

ってことは

自分が思っとるほど

ブスだって案外思われてないかも




気にし過ぎなんだよ

新沼ウザ男

男のくせに




このままいけば

自然消滅っていうやつにもっていける？


おつき合いしてるわけじゃあないから

自然消滅とは言わないか


嫌い嫌いって思ったら

平気で冷たくできる気がしてきた毒子であった



新沼くんからかかってくる電話の回数が調子イイ感じに減ってきた頃


そんなとき…






　　続